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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


(恵くん……)


私はこくりと頷き、恵くんの手のひらに左手の人差し指を落とした。
ゆっくりと文字を一文字ずつなぞっていく。


私の指先が恵くんの手のひらをなぞるたび、少し硬くて、節の目立つ感触が直接伝わってくる。

心臓の音がさらに速くなりそうだったけれど、今はそれどころじゃない。
まずは謝らなければ。




『ご』
『め』
『ん』
『ね』



私が書き終わるのを待って、恵くんは「……俺の方こそ」と短く返した。

そして、差し出したままの手のひらを、少しだけ上に上げる。
続きを書け、と促すように。

もう一度、恵くんの手のひらに指を走らせる。



「……ゴキブリいた? それで、あんな急に飛びついてきたのか」



恵くんの張り詰めていた肩の力がふっと抜けたのがわかった。

ごめんね。
だって、びっくりしたんだもん。
でも、よかった。
わかってもらえて。

恵くんが納得してくれたことに、私はほっと胸を撫で下ろした。

……けれど。
安心したのも束の間。


(……あれ? ってことは)


恵くんの『あんな急に飛びついてきたのか』という言葉が、頭の中で繰り返される。


(私、自分から恵くんに全力で抱きついたってことだよね……!?)


事故とはいえ、なんてことをしたんだと改めて自覚してしまう。
せっかく落ち着きかけた顔が、また一気に熱くなった。


(な、何か別のこと書いて誤魔化さなきゃ……っ)


まだ差し出されたままだった彼の手のひらに、再び指を走らせる。
けれど、気の利いた言葉なんて一つも浮かんでこない。


結果。
私の人差し指は、恵くんの手のひらの上で、ただ無意味な円をぐるぐると描き続けることになってしまった。
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