第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
次の瞬間、私たちは弾かれたように飛び起きた。
私は胸元を隠すように、自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
恵くんは私から勢いよく視線を逸らし、片手で自分の顔を覆った。
「………………悪い」
掠れた、小さな声で恵くんが謝った。
恵くんは耳まで真っ赤になっている。
それを見てしまったせいで、私の顔もさらに熱くなった。
これは事故。
でも、漫画と一緒の流れになってしまった。
どうしよう。
恵くんに、胸触られた。
どうしようどうしよう。
恵くんの顔が見られない。
心臓の音がうるさすぎて、狂ってしまいそう。
私は座り込んだまま。
恵くんも少し離れたところで、視線を逸らしたまま。
さっきまで近すぎた距離が、今度は変に遠い。
何か言わなきゃ。
沈黙が気まずい。
そもそも、私がアレを見て驚いたからこうなったわけで。
恵くんは、何一つ悪くない。
『ごめんなさい、私が転んだから』
『気にしないで』
ノートがない今、伝えるには手を動かすしかない。
(えっと、ごめんなさいはこれで、気にしないで、は……)
けれど、頭の中がパニックで、指がちっとも言うことを聞いてくれない。
伝えたい言葉が頭の中でこんがらがって、手が空中で意味不明な動きを繰り返してしまう。
(えっと、そうじゃなくて……っ!)
涙目になりながら指を絡ませていると。
「……落ち着け」
顔を上げると、恵くんが少し距離を詰めて、私の隣に座り直していた。
そして、私の目の前に、すっと右手を差し出す。
さっき私の胸に触れた手のひらを、上に向けて。
「……ここに書け。俺の手のひらに指で書けばわかるから」
それは、声が出せない、ノートもない私を気遣う、彼なりの不器用な優しさだった。