第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
私を呪いから救ってくれたのは、五条先生だけど。
私を見つけてくれたのは、恵くんと津美紀ちゃんなんだよ。
あの時、初めて思えたんだ。
暗い場所から出ても、大丈夫なんだって。
この手を握っていれば、怖くないんだって。
ここにいてもいいんだって。
ずっと恵くんたちと一緒にいたいって――。
だから今も。
暗い倉庫の中にいるのに、昔ほど怖くない。
隣に恵くんがいるから。
隣に座る恵くんの手に、自然と目がいく。
あの頃より、ずっと大きい。
指も長くて、骨ばっていて。
もう、子どもの手じゃない。
(また……繋ぎたいな)
気づけば、自分の手が恵くんの方へ動きかけた。
……え。
いま、私、何しようとした?
だめ。
今は、昔とは違う。
小さい頃みたいに、怖いから手を繋いでほしいなんて、簡単に甘えられない。
それに、今の私は――怖いからじゃなくて、ただ恵くんに触れたいだけだ。
そこまで考えてしまって、顔が一気に熱くなる。
これは、昨日あんな漫画を読んだからだ。
だから、変なことばかり考えてしまうんだ。
何か。
何か別のことを考えないと。
キョロキョロと周りを見回す。
薄暗い棚。
積み上げられた木箱。
埃をかぶった訓練用の道具。
その奥で、小さな光が揺れているのが見えた。
(……窓?)
棚の上の方に、小さな窓があった。
人が通れるほどの大きさではないけれど、外の様子は見えるかもしれない。
もし誰かが近くを通れば、気づいてもらえるかもしれない。
私が立ち上がると、恵くんが不思議そうにこちらを見た。
「どうした?」
私は小窓を指差してから、外を見る仕草をした。
それだけで、恵くんには伝わったらしい。
「……誰か通ったら、気づくかもな」
小窓は思っていたより高い場所にあった。
そのままでは届きそうにない。
棚の脇に置かれていた古びた椅子を、小窓の下まで引きずっていく。
「おい、気をつけろよ」
恵くんの声に振り返って、大丈夫と手で伝える。
椅子の上に足をかけた、その時。
視界の端で何か黒いものが動いた。