第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
「小さい頃、お前……目離すとすぐ狭いところに隠れてただろ。押し入れとか、物置とか」
そういえば、そうだったな。
五条先生に引き取られて、恵くんたちの家で暮らし始めたばかりの頃。
私はまだ、明るい部屋が苦手だった。
広い場所も。
人の声がする場所も落ち着かなくて。
暗くて狭い場所の方が、ずっと安心できたから。
でもね、恵くん。
一人でいるのが怖くなかったわけじゃないんだよ。
誰にも見つけてもらえないまま、このまま消えてしまうような気がして。
暗い場所に隠れているのに、本当はずっと誰かに見つけてほしかった。
「いつだったか、押し入れの戸が開かなくなって、出てこられなくなって」
恵くん、よく覚えてるな。
まだ言葉もよくわからなくて。
声も出せなくて。
助けて、なんて呼ぶこともできなくて。
私は押し入れの暗闇の中で、膝を抱えて震えていた。
すごく怖かったのを覚えてる。
「津美紀が最初に気づいてさ。家中探してもいないって、すげぇ焦ってた。俺も、どこ行ったんだよって思って探してたら、押し入れの中から物音がして」
「開けたら、お前が中で丸まってた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになって」
そ、そんなところまで覚えてるの……!?
恥ずかしい。
できれば、そこは忘れてほしかった。
「津美紀なんて、『見つかってよかった』って、お前より泣いてたな」
恵くんが当時のことを思い出したのか、ふっと笑った。
あ、その顔。
私の知っている、恵くんの優しい顔。
……やっぱり、好きだな。
「……覚えてるか?」
私はゆっくりと頷いた。
もちろん、忘れるわけない。
押し入れの戸が開いて、最初に見えたのは恵くんだった。
怖い呪いでも、知らない大人でもない。
あの時、恵くんは私に手を差し出してくれたよね。
押し入れから出ても、私は全然泣き止めなかった。
津美紀ちゃんが何度も背中を撫でてくれて。
恵くんは困ったような顔をしながら、それでもずっと私の手を握っていてくれた。
その日は私のそばに、津美紀ちゃんも恵くんもずっといてくれた。