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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


隣にいる恵くんの気配が、思っていたより近い。
少し腕を動かしたら、触れてしまいそうな距離。


さっきから心臓がどくどくとうるさく鳴っている。
こんなに近くにいたら、この音まで恵くんに伝わってしまうんじゃないだろうか。


ちらりと隣を見ると、恵くんは膝に片腕を乗せたまま、じっと床の一点を見つめていた。
何かを考えているみたいだ。

こういう時でも、落ち着いている横顔。
伏せた長い睫毛。
少し不機嫌そうに結ばれた――唇。


な、なんでそこに目がいっちゃうの!?
見ちゃだめだってば。

恵くんの唇から目が離せないでいると、ひとつの疑問が浮かんでしまった。


恵くんは、キスをしたことがあるのだろうか。


……ある、のかな。
本人はあまり自覚してないけれど、恵くんはとてもモテる。
中学の時も、よく告白されていた。
そういう相手がいてもおかしくない。

無愛想だけど、なんだかんだ優しいし。
困っている人を放っておけないし。
それに、周りの目を引くくらい整った顔をしている。


今までずっと、恵くんのそばにいた。
でも、もし恵くんに大切な人ができたら……。

私の知らないところで。
私の知らない誰かと。
私の知らない恵くんが、少しずつ増えていくのかもしれない。


そう思ったら、胸の奥がきゅっと痛んだ。


(……やだな)


なんだか急に悲しくなってきて視線を逸らそうとした、その時。
不意に恵くんと目が合った。



「……何だよ」



み、見てたの気づかれた。
何でもない。
何でもないよ。

ノートがないせいで、首を振ることしかできない。

お願い。
今は、何も聞かないで。


恵くんは私の動きを訝しげに見ていたが、それ以上は追及してこなかった。


しばらく、倉庫の中に静けさが落ちた。
やがて、恵くんは薄暗い倉庫の中を見回して、それから少しだけ懐かしむように目を細めた。



「……そういえば、昔もあったな。閉じ込められたこと」
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