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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


「お前の言う通り、無理に壊して、中の呪物まで巻き込んだら面倒だな」



そう言ってから、恵くんはふと何かを思い出したようにポケットへ手を突っ込む。



「そうだ、スマホで虎杖あたりに――」



そこで、恵くんの動きが止まった。

ん、まさか……。



「……スマホ、ロッカーだ」



恵くんは苦い顔のまま、私を見る。



「は?」



私は首を横に振った。
それから、両手で四角い形を作って、胸の前で開く仕草をする。
続けて、何かを書くみたいに指を動かす。
そして、もう一度首を横に振った。


恵くんは、すぐに意味を察したようだった。



「……ノートもペンもないのか」



力無く頷くと、恵くんが短く息を吐いた。

ごめんね、恵くん。
私、足引っ張ってばかりだ……。


申し訳なさで胸がいっぱいになり、私はしゅんと肩を落として俯いた。
声が出せない私にとって、ノートは言葉そのものだ。
それすらないこの密室で、どうやって恵くんとやり取りすればいいのか。
不安でぎゅっと自分のジャージの裾を握りしめていると、大きな手が私の頭に乗せられた。



「……そんな顔すんな」



俯いていた顔を上げると、薄暗い中でも、私を見下ろす恵くんの真っ直ぐな瞳とぶつかる。



「俺ならお前が言いたいことくらい……ノートがなくても、だいたいわかる」



ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

十年という時間が彼にそう言わせているのだと、頭ではわかっている。
でも、『俺なら』というその特別扱いのような言葉に、どうしても嬉しさが込み上げてきてしまう。


恵くんは私の頭から手を離すと、「まあ」と軽く肩をすくめた。



「そのうち、誰かがいないことに気づいて探しに来るだろ。少し待つか」



そう言って壁を背にし、床に腰を下ろした。
軽く膝を立てると、隣のわずかなスペースに視線を向ける。
『座れよ』と言うように。


私はこくりと頷いて、恵くんのすぐ隣に座った。
膝を抱えて、小さく丸くなる。
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