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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


(……恵くんの唇は、柔らかいのかな)


いつも不機嫌そうにへの字に曲がっている、彼の少し薄い唇の形が頭に浮かんだ。

もし、私が恵くんに『好き』って伝えたら。
両思いになれたら、恵くんとキスできるのかな?
その先も、漫画みたいに――?



『好き』



漫画の女の子は、声に出して思いを伝えていた。
だから、彼と結ばれて、あんなふうに触れ合うことができた。


でも、私は。
もし恵くんに思いを伝えたら……。
その瞬間に、恵くんは呪いに喰われてしまう。


このどうしようもない胸の熱の正体が「恋」だということは、もう痛いほどわかっている。
わかっているからこそ、この気持ちは一生、私の中で息を殺していなければいけないもの。


そう思うのに。
胸の奥に押し込めようとすればするほど、苦しいくらい膨らんでいく。


言えない。
伝えられない。
届かせてはいけない。


それでも、せめて。
誰にも見られない場所でなら。
誰にも届かない、私だけの秘密の場所になら。

体を起こし、机に置いてあったいつものノートを手に取った。
十年間、私の声の代わりをしてくれた大切なノート。

ペンを握り、新しい真っ白なページを開く。
誰も見ていない。
ここには私しかいない。


ペン先を紙に落とす。
胸の奥で渦巻く気持ちを、そのままインクに乗せるように。



『恵くん、す』



そこまで書いて、手が止まった。
あと一文字なのに。
その一文字がどうしようもなく重くて、恐ろしかった。


(……だめ)


文字にして、それが確かな「形」を持ってしまったら。
いつか、このページを彼に見せたいと。
この想いを届けたいと、欲張ってしまう日が来るかもしれない。


私はペンを握り直し、書きかけの言葉をぐしゃぐしゃと乱暴な線で塗りつぶした。
紙が破れそうになるくらい、何度も、何度も。
真っ黒になるまで。

その言葉を閉じ込めるように――。
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