第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
♢
その日の夜。
自分の部屋に戻った私は、野薔薇ちゃんから借りた少女漫画を読み始めた。
最初は、よくある学園ものだった。
素直になれない女の子と、無愛想だけど優しい男の子。
二人は幼馴染で、いつも近くにいるのに、なかなか気持ちを言葉にできない。
ページをめくる指が、そこで止まる。
幼馴染。
無愛想だけど優しい男の子。
……なんだか、少しだけ恵くんに似ている気がした。
物語の中盤。
二人は、放課後の古い用具倉庫に閉じ込められてしまう。
狭くて、暗い空間。
何かの拍子にバランスを崩した女の子を庇って、男の子が覆いかぶさるように倒れ込む。
その時、ハプニングで彼の手が女の子の胸に触れてしまった。
ぱたんと本を閉じた。
な、なにこれ。
こんなこと、現実に起こるの!?
用具倉庫に閉じ込められて?
転んで?
覆いかぶさられて?
そのうえ、胸に手が触れるなんて?
そんな偶然、全部まとめて起こるものなの?
野薔薇ちゃん。
これは本当に恋愛の教科書なの?
恋って、こんなに事故みたいに始まるものなの?
心臓がうるさい。
だけど、どうしても続きが気になってしまう。
私はおそるおそる、もう一度ページを開いた。
漫画の中の女の子は真っ赤になって、男の子も同じくらい動揺していた。
『ご、ごめん……っ』
『……ううん』
気まずい沈黙。
暗い倉庫の中で、お互いの心臓の音だけがうるさいくらいに響いている。
けれど、暗闇の中で触れた彼の体温が女の子の背中をそっと押した。
彼女は彼に触れたまま、ずっと隠していた言葉を口にする。
『好き』
男の子は最初驚いたが、やがて優しく微笑んで、彼女を強く抱きしめ返した。
『俺も、ずっと好きだった』
思いが通じ合った二人は、恋人同士になり、そのまま甘いキスをする。
そして、ページをめくると――その先。
ただのキスだけでは終わらない、私にはまだ知らない世界が描かれていた。