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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


もし、私がノートに『好き』なんて書いてしまったら。

ただでさえ色んなものを背負っている恵くんを、困らせてしまう。
それに、十年かけて築き上げてきた、この関係が壊れてしまうかもしれない。


彼が私に向ける、あの不器用で優しい眼差しが、戸惑いや憐れみに変わってしまったらと思うと――息ができなくなるくらい怖い。

だから、伝えられない。

声が出せても、出せなくても。
たとえ文字にできたとしても。
伝えるなんて、絶対にできない。


私がぎゅっとノートを抱きしめて俯くと、野薔薇ちゃんは「……はぁ、これだから拗らせ幼馴染は」と天井を仰いだ。



「ま、あんたがそこまでビビる気持ちもわからなくはないわよ。相手があの伏黒じゃね。……よし、決めた」



野薔薇ちゃんはベッドから立ち上がると、部屋の奥にある本棚へ向かい、ガサゴソと何かを探し始める。


戸惑う私の前に、「はい、これ!」と勢いよく差し出されたのは――キラキラした瞳の男女が見つめ合っている表紙の少女漫画だった。


漫画……?
どうして、急に?


私が表紙と野薔薇ちゃんの顔を交互に見ていると、野薔薇ちゃんはビシッと私に人差し指を突きつけた。



「今のあんたに必要なのは、恋愛脳よ! 家族だのなんだのうじうじ言ってたら、伏黒、他の女にソッコーでかっさらわれるわよ!」

『かっさらわれる……?』



私がノートに書くと、野薔薇ちゃんは力強く頷いた。



「あのね、関係が壊れるのが怖いなら、まずはその先にどんな幸せが待ってるのか、ちゃんと知りなさい!」

「これは私が厳選した恋愛の最高峰の教科書だから、今日の夜、部屋で隅から隅まで熟読すること! わかったわね!?」



有無を言わさない野薔薇ちゃんの凄まじい剣幕に、私はこくこくと頷くことしかできなかった。
手渡されたその単行本が、この後――私の心臓を爆発寸前まで追い詰める劇薬だとは知る由もなく。
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