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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**


虎杖ならあの持ち前の明るさで、の沈黙の中へ簡単に入り込んでいくのかもしれない。

があいつを見上げて笑う。
俺の知らない合図を向けて、安心したように目を細める。
俺が知らないまま、二人の間にだけ通じるものが増えていく。

の『特別』が、虎杖のものになっていく――。



「…………っ」



気づけば、手に持っていた紙パックをぐしゃりと握り潰していた。


今までが困った時、最初に視線を向ける相手。
言葉にできない不安を、手や指で伝える相手。
人混みの中で、無意識に袖を掴む相手。

それはずっと、俺だった。

のことは、俺が一番わかっている。
そう思っていた。


けれど高専に来てから、の世界は少しずつ広がっている。

あいつが俺以外の誰かを頼れるようになることも。
俺の隣じゃない場所で、笑えるようになることも。

いいことだ。
本当は喜ぶべきことなんだと思う。


それでも。
俺が十年かけて覚えてきた合図を。
俺だけに向けられていると思っていた沈黙を。
誰かに奪われるのは、どうしても嫌だった。

の言葉にならないものを、俺だけが拾っていたい。
そんな身勝手な感情が、胸の奥に苦く残る。


でも。
自身が俺よりも、虎杖や他の誰かの隣で笑うことを選ぶのなら。
俺はきっと、黙ってそれを受け入れるしかない。

それが、家族としての『責任』なのだから。



「……くそ」



潰れた紙パックを見下ろす。
自分の中の醜い感情まで形になった気がして、どうしようもなく息苦しかった。
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