第10章 霧の屋敷の裏側
次に入ったのは小さな宝石店だった。
ガラスケースの中には、きらきらと光る宝石や繊細な銀の指輪が並んでいる。どれも美しく眩しすぎて、通り過ぎた。
そのまま店の奥へ進む。
色とりどりの糸巻き。
小さな鋏。
繊細な刺繍針。
「……!」
裁縫セットのコーナーまで来ると、ニナの表情が柔らかく変わる。気づけば足は自然とそちらへ向いていた。
「金の糸と銀の糸……黒も綺麗……」
棚を覗き込みながら小さく呟く。
脳裏に浮かんだのは、イルミがよく演奏会で纏う真紅のジャケットだった。
イルミは比較的物を雑に扱うわけではないが、何せ旅が多い。袖口の刺繍は細かく、少し解れればすぐに目立つ。
ニナは時折それを繕う時間が密かに好きだった。
見るだけとは言え、色の組み合わせを考えているだけで楽しくなる。
先ほどまでは何処か居心地の悪かった店の空気も、不思議と気にならなかった。
「ニナ! 何見てるんだ?」
キルアが覗き込み、ニナは顔を上げた。
「えっ……特に。ただ、なんとなくよ」
「ふーん?」
キルアは棚の裁縫道具を見回したあと、首を傾げる。
「それより指輪とか見ねーの? お母さんみたいなの」
想像してみても、なんだかしっくりこない。ニナは思わず曖昧に笑った。
「……そうね。素敵だとは思うわ」
だがその返事を聞いたキルアは、何故か得意げに胸を張った。
「じゃあ俺と結婚したら買ってやるよ!」
ニナは思わず目を瞬かせる。
ついこの間は長男から、そして今同じようなことを、目の前の少年から言われた。髪や瞳の色が似つかなくとも、やはり兄弟なのだと思う。
そう考えると、妙に腑に落ちた。
「ふふ。ありがとう、嬉しいわ!」
ニナはにわかに気持ちが軽くなっていく。
店の外に広がる水色と灰色の空は絵画のようで、ニナはまるで御伽話の中へ迷い込んだような気分になった。