第10章 霧の屋敷の裏側
馬車は蹄の音を響かせながら石畳の道を優雅に進む。
石造りの建物が並ぶ通りは、朝の陽光を受けて柔らかく輝き、淡い灰色の空にはパンの焼ける香りと、どこかから漂うコーヒーの芳しい匂いが混じっていた。
シルバは馬車の窓辺にゆったりと腰を下ろし、隣に座るニナを見やった。
働き者の彼女は今日も家族の支度を整え、シルバの言葉に素直に従って一緒に乗ってきた。シルバは息子達を統制する厳しい視線とはまた違った眼差しで、彼女を半ば娘のように見守っていた。
向かいの席では、キルアが窓の外を興味津々に眺めている。
「すげー! なんか面白そうじゃん。馬車って意外と揺れないんだな」
「そうか。キルアはあまり旅に連れて行っていなかったな」
大聖堂の尖塔が見えたあたりで、馬車が街の中心広場近くで止まる。
「俺は教会で用事を済ませてくる。昼前には戻る。ニナ、キルアを頼んだぞ」
「はい。承知いたしました」
ニナとキルアは2人で馬車から降り立った。
広場は人々で賑わい、露店には色とりどりの布地や銀細工が並ぶ。
キルアはすぐに珍しい形の菓子に目を奪われ、ニナの袖を引いた。
「これ、食べてみたい! すげーいい匂いがする」
ニナは頷くと店主に声をかけ、キルアが指差した蜂蜜とナッツの入った小さな焼き菓子を幾つか買った。
「ニナは?」
「えっ? 私」
店頭に並ぶ菓子はどれも目を引くが、自分のために何かを選ぶことに慣れていないニナは、どれを手に取ればいいのか分からなかった。
「私はいいのよ」
「そっか」