第10章 霧の屋敷の裏側
向かう先は屋敷二階の奥。
ほとんど誰も近寄らない一角だった。
近づくにつれ、独特な匂いが漂ってくる。
油。埃。古い羊皮紙。それから、干菓子の甘ったるい匂い。
廊下には読み散らかした錬金術書や設計図が積み上がり、奇妙な歯車や分解途中の懐中時計が無造作に転がっていた。
半開きの扉の隙間からは、ランプの薄青い光が漏れている。
イルミは躊躇なく扉を押し開けた。
「ミルキ」
室内は酷い有様だった。
分厚いカーテンで昼の光は閉ざされ、机の上では幾つものオイルランプがぼんやり揺れている。
机一面に広がるのは暗号文、設計図、得体の知れない器具の部品。
食べかけの焼き菓子や空になったティーカップも積み上がったまま放置されていた。
床には大量の本と紙束。壁際には自作らしい奇怪な機械まで並んでいる。
巨大な肘掛け椅子へ埋もれるように座っていたミルキが、不機嫌そうに顔を上げた。
「はぁ? 何だよイルミ兄さん。ノックくらいしてくれよ」
菓子に伸びる手は止まらない。
イルミはそんな部屋を一瞥してから、静かに口を開いた。
「ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど」