第25章 帰着
「殿下」
イルミはエレオノーラの前まで来ると、手にしていたグラスを傍らのテーブルに置いた。
それから、わずかに頭を下げた。
「この度は、おめでとうございます」
「ありがとうございます、イルミ先生」
エレオノーラは微笑んだ。
「先生のお力あってのことでございますわ」
「曲だけでは、オペラにはなりませんから」
「まあ、そんな。それがなければ、今夜の祝宴もございませんでしたでしょう」
「ありがとうございます」
イルミはごく自然に右手を差し出した。
エレオノーラは一瞬、その手を見た。
何でもない挨拶だ。だから彼女も、何でもないように手を伸ばした。
二人の指先が触れようとした、そのときだった。
「殿下!」
横から声が飛んだ。
続いて、別の声が重なる。
「イルミ=ゾルディック先生、こちらを!」
気づいたときには、数人の記者が二人を取り囲んでいた。
エレオノーラの手が止まる。
イルミも、差し出していた手を引いた。
「お二人、ぜひこちらへ」
「今回の成功について、一言いただけますか」
「殿下、先生とのご共演はいかがでしたか?」
次々と声が重なる。
エレオノーラは一瞬だけ、引かれていくイルミの手を見た。それから顔を上げる。
王女エレオノーラ=ルドルフ=グランツェは、記者たちへ優雅に微笑んだ。