第25章 帰着
エレオノーラは、静かに扇子を閉じた。
父の言葉がどう書かれるかは、想像がついた。
否定しなかっただけで十分なのだ。
今、王都の人々が求めているのは、戦場の話でも、失われた命の数でもない。勝利の祝祭と、華やかな舞台、その舞台に立った若い王女の恋の行方だった。
王宮がそれを知らないはずはなかった。
父も、おそらく――。
エレオノーラの眉が下がる。
「それでは殿下、もう一つだけ」
記者が身を乗り出した。
「先生とのご結婚について、殿下ご自身のお気持ちをお聞かせいただけませんか?」
エレオノーラは微笑みを浮かべたまま、視線を伏せる。
何と答えるべきかは、分かっていた。
けれど、言葉を口にする前に、隣でイルミが動いた。
彼は一度、国王の方へ視線を向けた。
ルドルフはすでに、別の客人と談笑していた。
王妃も、近くに控えていた侍従たちも、こちらへ介入する様子は一切ない。
イルミはその光景に一瞬、眉をわずかに顰めると、記者たちへ向き直った。
「……殿下がお困りですので、失礼します」
「え?」
記者が顔を上げた。
「いえ、しかし先生、もう少しだけ――」
「十分でしょう」
イルミは静かに言った。
「殿下」
エレオノーラが顔を向けると、イルミは彼女の傍らに立っていた。
「少し、よろしいですか」
「……ええ」
エレオノーラは頷いた。
イルミは記者たちに軽く会釈すると、そのまま歩き始めた。
エレオノーラも、彼の後に続いた。
背後では、まだ記者たちが何かを話していた。
「いやはや、先生は随分と殿下を大切になさっているようですな」
「これは、ますます分からなくなりましたぞ」
楽しげな笑い声は収まりそうもない。
イルミは振り返らなかった。
エレオノーラも、もうそちらへ微笑みを向けられなかった。