第25章 帰着
エレオノーラは、何気なく広間の入口へ目を向けた。
ちょうど新しい客人が到着したところだった。侍従が名を告げ、華やかな衣装の夫妻が広間へ入ってくる。
彼女はすぐに視線を戻した。
「殿下、次回の公演にもご出演なさるご予定ですか?」
「まだ何も決まっておりませんの」
「ぜひまた、殿下のお歌を聴かせていただきたいものです」
「ありがとうございます」
会話は途切れなかった。
音楽が流れ、杯が鳴り、あちこちで笑い声が上がる。
宴が始まってからずいぶん時間が経った。
エレオノーラは、もう入口を見ないことにした。
きっと、今夜も忙しいのだろう。
そう思ったときだった。
広間の入口近くで、侍従が一人、脇へ退いた。
「イルミ=ゾルディック先生、ご到着でございます」
近くにいた客人たちが、一斉に顔を向けた。
「おお、先生が!」
「これは、よくお越しくださいましたな!」
エレオノーラは、すぐには振り返らなかった。
手にしていた杯に静かに口を付ける。
それから、何事もなかったように顔を上げた。
入口には、黒い礼服に身を包んだイルミが立っていた。
遅れてきたことを気にする様子もなく、広間を一度見渡すと、声をかけてくる客人たちに軽く会釈を返した。
まずは国王へ。
それから王妃、居並ぶ王族たちへ。
イルミは一人ひとりに挨拶を済ませると、今度は劇場関係者や貴族たちと言葉を交わし始めた。
どこへ行っても人が集まり、祝辞が寄せられる。
イルミはその一つひとつに礼を返し、ときには杯を掲げて応じていた。
途中、何度かこちらを見たような気もした。けれど、エレオノーラは確かめられなかった。
声をかけてくる者に微笑み、祝辞には礼を返す。今夜は自分も、この祝宴の主役の一人なのだから。それでいい。
「………、」
やがて、目の前にいた客人が離れ、そこにイルミがいた。