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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第25章 帰着


支配人は苦笑しつつも、広間に流れる序曲にふと耳を傾ける。何度も聴いたはずの旋律だった。それでも、まだあの夜に劇場で耳にしたときの感動は鮮やかに残っていた。

「あれほどの作品を書かれたのです。各国が放っておくはずもございません」



今夜の話題は、どこへ行ってもオペラのことばかりだった。
若い音楽家が作曲と指揮を務め、王女自らが舞台に立った。その華やかな成功は、戦勝に沸く王都に格好の話題を提供していた。
記者たちは貴族や劇場関係者を捕まえては取材を重ね、手帳に次々と書き込んでいる。


国王ルドルフも上機嫌だった。
大臣や各国の使節と杯を交わし、ときおり朗らかな笑い声を上げている。その傍らでは王妃が客人たちと言葉を交わし、王族の若者たちも思い思いに宴を楽しんでいた。

エレオノーラも、今夜はその中心にいた。

「殿下、この度は誠におめでとうございます」

「ありがとうございます」

「王女殿下のお歌を拝聴できるとは、まことに光栄なことでございました」

「まあ。恐れ入りますわ」

エレオノーラは微笑み、差し出された祝辞に一つひとつ礼を返した。

公演を終えてからというもの、同じ言葉を幾度となく聞いていた。
それでも、こうして直接祝福を受けるのは嬉しかった。何か月も稽古を重ねてきた日々が、ようやく一つの形になったのだと実感できる。


「ところで殿下」

客人の一人が、何気ない調子で尋ねた。

「今夜はゾルディック先生もお見えになるのでしょうか」

「……ええ。ご招待は差し上げておりますわ」

「それは楽しみですな。ぜひ一度、直接お祝いを申し上げたいものです」

「ええ。先生も、きっとお喜びになるでしょう」

エレオノーラはそう答えた。
けれど、本当に来るのかどうかは、彼女にもわからなかった。
公演が終わってから、イルミとはほとんど顔を合わせていない。
劇場には毎日のように彼宛ての手紙が届き、使者が訪れ、次の仕事の打ち合わせが続いていると聞いていた。だが当の本人が劇場に足を運ぶことはなかった。
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