第25章 帰着
九月十日の初演から六回にわたる公演を終え、暦は十一月を迎えた頃――。
宮廷では、新作オペラ『花冠の行方』の成功を祝う宴が開かれていた。
先の戦勝を祝う催しも兼ねており、広間には王族や貴族をはじめ、各国の使節、劇場関係者、それに王家から取材を許された新聞記者たちが招かれていた。
高い天井から吊るされたシャンデリアが、幾百もの燭台の光を受けて輝いている。磨き上げられた大理石の床には、色とりどりのドレスの裾が行き交い、給仕たちは銀盆にシャンパンの杯を並べて客人の間を縫うように歩いていた。
広間の一角では、小編成の楽団が『花冠の行方』の序曲を奏でていた。
「ああ、やはりこの旋律ですな」
杯を手にした男が、隣の客人へ顔を向けた。
「先日、劇場で聴いたばかりですが、もうすっかり耳に馴染んでしまいました」
「それもそのはず。今や王都では、どこへ行ってもこの曲ばかりですからな」
二人は愉快そうに笑った。
「そういえば、決まったそうですな」
「ええ。来季にも再び上演されるとか」
「それはめでたい。あれほどの評判ですからな」
少し離れたところでは、劇場の支配人が貴族たちに囲まれていた。
「いやはや、最後の舞台は大変な騒ぎでございました。終演後も拍手が鳴りやまず、出演者を何度舞台へ呼び戻したことか」
「王女殿下も、実に見事なお歌でした」
「もちろんでございます。それに、ゾルディック先生の指揮も素晴らしかった」
「そのゾルディック先生は、今夜はいらっしゃるのですかな?」
「是非とも、目の前で演奏を聴いてみたい」
「さて、それが……」
支配人は少し困ったように笑った。
「ご招待は受けていらっしゃると伺っておりますが、何しろ……公演が終わってからというもの、各方面からお声が掛かっているそうでして」
「ほう」
「昨日も外国の劇場から使者が訪ねてきたとか。新作の依頼に、演奏会の招待に、楽譜の出版の話まで。とてもお一人では捌ききれないほどだそうです」
「それは大変ですな」
「ええ。劇場でも、先生とお話しするには、まずお時間を確保していただかなくてはならない有様で」
「ふうむ。それは残念だな。なんとかお呼びできないものかね?」
「私どもも、ぜひお越しいただきたいのですが……」