第24章 別離
「今回の公演のため、延期なさっていた仕事もあるようです。パドキアへ戻った後にも、演奏の予定がいくつか。そのほか、作曲の依頼も来ているとか」
「そんなに?」
「今回の成功で、さらに増えるでしょう」
「……断れないの?」
「断ることはできます。ただ」
執事はそこで一度言葉を切った。
「仕事を受け、約束した場所へ赴き、結果を残す。それが次の仕事につながります。宮廷に籍を置いて俸給を受ける音楽家とは、少し事情が違いますので」
「……」
エレオノーラは黙った。
初めて、少しだけ分かった気がした。
自分は王宮から出られない。
イルミは王宮に留まれない。
彼には行くべき場所があり、自分には果たすべき役割がある。どちらも、行きたいところへ好きに歩いていけるわけではなかった。
ふと、新聞へ視線を戻した。
《運命の恋》
その文字が、急にひどく滑稽に見えた。
演奏会の記事。
祝賀会の記事。
オペラを振り返る特集記事。
そのたびに、二人の絵が使われた。
新聞の中の二人は、日を追うごとに親密になっていく。現実の二人は、反対だった。
六回目の公演が終わった夜。
あれが、最後だった。
エレオノーラは紙面へ視線を落とし、ため息をついた。
あの日から、一度も会っていない。手紙すら来ない。届くのは契約書と、引き継ぎの書類ばかり。
「今度の祝賀会には?」
「オペラの上演成功を祝う会でございますね。もちろん、招待状はお送りしております」
「お返事は?」
「現在のところ、まだ頂戴しておりません」
「……そう」
「先生も大変お忙しいようですので、ご予定次第かと」
予定次第。
たったそれだけの言葉なのに、ひどく冷たく感じた。