第24章 別離
「再演のお話も出ております」
執事の声に、エレオノーラは顔を上げた。
「そうなの?」
「はい。王立劇場としても、正式なレパートリーに加えたい意向のようです」
「……先生は?」
「もちろん、ご招待いたします」
「招待……」
思わず、その言葉を繰り返した。
以前なら、イルミが来ることに理由など必要なかった。彼の作品だったから。彼が指揮する舞台だったから。
それが今では、招待状を送らなければ会えない人になってしまった。
「先生は……今後はどうなさるのかしら?」
「まずはパドキアへお戻りになる予定だと伺っております」
「パドキア?」
「はい。今回、ゾルディック先生はグランツェ王国に仕官されたわけではございません。パドキア共和国からの紹介を受け、この公演のために招聘された方ですので」
「……そうだったの」
パドキアから紹介された音楽家であることはエレオノーラも知っていた。けれど、その言葉が何を意味するのかまで考えたことはなかった。イルミが王立劇場にいることが、あまりにも当たり前になっていた。
「では、先生はパドキアの宮廷音楽家なの?」
「少々事情が異なります」
執事は言葉を選んだ。
「ゾルディック家は代々、パドキアの宮廷と深い関わりを持つ音楽家の家系でございます。ただ、近頃は時代も変わり、名声のある音楽家は一つの宮廷に仕えるばかりではなく、各国から直接依頼を受けるようになっております」
「先生も?」
「ええ。宮廷からの仕事もお受けになりますが、他国の劇場に招かれたり、個人から作曲を依頼されたりすることもございます」
「じゃあ……好きなところへ自由に行けるのね」
執事はすぐには頷かなかった。
「行くことはできます」
その言い方が気になって、エレオノーラは顔を上げた。
「違うの?」
「自由という意味でしたら、何とも申し上げにくいかと」
「どうして?」
「決まった宮廷に常時仕えていないということは、次の仕事をご自身で受け続けなければならないということでもございます」
「......」