第24章 別離
王宮の自室で、エレオノーラは手にしていた新聞をテーブルへ置いた。
《運命の恋》
《王家公認か》
《婚約間近?――若き王女と天才音楽家》
好き勝手な見出しが躍る紙面には、寄り添う二人の姿が挿絵として描かれていた。イルミはエレオノーラのすぐ隣に立ち、肩が触れそうなほど近くにいる。実際には、取材のためにほんの数歩だけ並んだだけのことだった。
記事を読めば、まるで二人が毎日のように逢瀬を重ねているように書かれている。王女と音楽家による世紀の恋だとか、身分を越えた異例の婚姻だとか、そんなことまで書く新聞もあった。
エレオノーラは小さく息を吐いた。
「殿下」
執事の声に顔を上げる。
「先日の戦勝とオペラでのご活躍を受けまして、諸外国より、いくつか縁談についてのお問い合わせが届いております」
「……もう?」
「正式な婚姻の申し入れではございません。まずはご挨拶を、という程度のものでございます」
執事は何通かの書簡をテーブルへ置いた。どれも立派な封蝋が押されている。
「陛下も、現時点では特定の国とお話を進めるおつもりはございません。今後、グランツェがどの国との関係を深めるべきか、閣僚ともども慎重に検討されております」
「そう」
「ですから殿下には、当面は各国の方々と広くお付き合いいただければと」
「……広く?」
「はい。晩餐会や舞踏会などでお話しいただくだけで結構です。近すぎず、かといって遠ざけることもなく」
執事は穏やかに微笑んだ。
「今は、どのご縁も閉じてしまわないことが肝要かと」
「そうね。分かったわ」
エレオノーラは頷いた。
王女としては、それでいい。
誰の隣に座るのか。
誰と踊るのか。
誰からの花を受け取るのか。そんな小さなことにも、国と国との距離がついて回る。
それくらいは、もう分かっていた。
ふと、テーブルの新聞が目に入った。
そこではイルミが、自分のすぐ隣にいる。
「ねえ」
「はい」
「ゾルディック先生から、何かお便りはあった?」
執事は少し考えた。
「そうですね。先日、書面が届いております」
エレオノーラの顔がわずかに明るくなった。
「本当? なんて?」