第23章 喝采のあと
王都を離れる頃には、もう夕方になっていた。
ゾルディック家の馬車は賑やかな大通りを抜け、郊外へと向かった。窓の外から人影が徐々に減り、やがて街の喧騒も遠ざかっていった。
ホテルに着くと、ニナはシルバたちと別れ、自分にあてがわれた部屋へ戻った。
扉を閉めると、廊下の物音も聞こえなくなった。
部屋には厚い絨毯が敷かれており、差し込む西日が家具の影を長く伸ばしている。
窓辺には書き物机が置かれている。
ニナはその傍らの肘掛け椅子に腰を下ろした。
しばらく、何をするでもなく座っていた。
王都で見た光景が、次々と頭に浮かんできた。
大通りを埋め尽くす人々。
王家の馬車。
エレオノーラに向かって振られる無数の旗。
そして、街中で鳴っていたイルミの旋律。
「兄貴の曲だ」
隣を歩いていたキルアが、当たり前のようにそう言った。その言葉が、なぜかニナの胸に引っかかった。
ニナはあの旋律が好きだった。
今でも、好きだ。
それなのに、大勢の人が口ずさむほどになぜか、少しずつ自分から遠ざかっていくような気がした。
なぜか、自分の知っている曲じゃないような。
いや、そんなはずはない。
曲はよく知っている。
劇場いっぱいに響いていたあの曲だ。
それは疑いようのないことなのに、胸の中に冷たい空気が流れ込む。
確かに、あの旋律はイルミが作曲したのだ。
それなのに、王都を熱狂させているのはもう、自分の知っているイルミ=ゾルディックではないように思えた。
ニナは窓の外を見た。
いつの間にか日は傾き、遠くに見える王都には、ぽつぽつと灯りがともり始めていた。
遠くの方から、また聞き覚えのある旋律が聞こえてくる気がした。
けれどもう、それを追いかけるのをやめた。
そのとき、ふいに机の上に置かれた便箋が目に入った。