第23章 喝采のあと
六回の公演を終えてからというもの、招待は途切れなかった。
演奏会、晩餐会、貴族の私邸での小さな夜会。そこへ新聞社からの取材や、新作の依頼まで入り込んでくる。
イルミが演奏会から演奏会へ移るその合間にも、予定を組み直し、断るものを選び、先方へ使いを出さなければならない。
それだけで一日が終わった。
執事は手帳の先に並ぶ予定を眺めた。
明日も、その次の日も埋まっている。
小さく欠伸を噛み殺す。
目の端に浮かんだ涙を指で拭ってから、向かいを見た。
イルミはまだ、同じ一小節を見ていた。
馬車が大きく揺れた。
片手で譜面を押さえ、もう一度最初から目で追った。
王女の声に合わせて下げたところ。
舞台のために厚くしたところ。
オーケストラに渡したところ。
一つずつ確かめていく。
そして、ある音を元の高さへ戻した。
その先に小さな装飾を加える。
イルミの手が止まった。
「……あ」
今度は消さなかった。
誰に聞かせるでもなく、その数音だけを小さく口ずさむ。
「たぶん、こっちのほうが好きだな」
執事が顔を上げた。
「誰がです?」
イルミは答えず、次の音を書いた。
馬車は次の演奏会へ向かって走っていた。