第23章 喝采のあと
ところが、ニナが続きを歌うより先に別の声が聞こえた。
通りの向こうを歩いていた女だった。
その隣では、子どもまで同じところを歌っている。
酒を持った兵士たちは肩を組みながら歌っていた。
ニナは口を閉じた。
「すげえな」
キルアが言った。
「みんな知ってる」
「……うん」
「兄貴、ここにいねえのにな」
ニナは少し笑った。
「そうね」
不思議だった。
数ヶ月前まで、すぐ近くにいた人なのに。
一緒に食事をしたこともある。
眠そうな顔も見た。
機嫌が悪ければ、すぐ分かった。
その人の作った音楽を、今は知らない人たちが歌っている。
「……すごいわね」
ニナはもう一度言った。
嬉しくないわけではなかった。
ただ、まだ少し馴染めなかった。
自分が好きだったものと、街中の人間が熱狂しているものが、本当に同じものなのか分からなかった。
そのとき、通りの向こうから大きな歓声が上がった。
「来たぞ!」
人々が一斉に大通りへ押し寄せる。
第一王子レオポルト=ルドルフ=グラツェの即位を祝う行列が大通りを進んでいる。
「陛下万歳!」
「グラツェ万歳!」
「殿下ー!」
「王女様ー!」
キルアがニナの腕を引いた。
「見える?」
「うん」
人垣の向こうを、王家の馬車が進んでくる。
その上に、エレオノーラがいた。
ニナは目を瞬いた。
劇場で見た少女だった。
けれど今日は、王家の色を纏っている。
背筋を伸ばし、沿道の人々へ微笑みながら手を振っていた。
「エレオノーラ様!」
名前を呼ぶ声が、あちこちから飛ぶ。
届くはずもないと思いながら、ニナも小さく手を上げた。
けれど、エレオノーラがふとこちらを向いた。
「あ」
一瞬だけ、目が合った。
エレオノーラは胸元で、ほんの少しだけ指先を動かした。