第22章 幕開け
そこへ音楽が戻ってくる。
先ほどの華やかな主題ではない。
何かを失ったような、木管の短い旋律だった。
ほんの数小節。
王女がふと遠くを見る。
だが、その旋律を追いかける暇もなく、舞台の奥で太鼓が鳴った。
一打。
もう一打。
低い弦の刻みに、金管が重なった。
先ほどまで宮廷を駆け回っていた人々が、一人、また一人と振り返る。
扉が開く。
戦場から兵士たちが帰ってきた。
軍靴が舞台を踏む。
旗が掲げられる。
その向こうから、勝利を告げる角笛が高らかに響いた。
音楽はもう、王女の小さな旋律をどこにも残していなかった。
太鼓が鳴る。
金管が応える。
弦がその間を駆け抜け、劇場いっぱいに音が膨らんでいく。
先ほどまで勲章の順番を争っていた男たちも、席次表を奪い合っていた貴族たちも、今ばかりは同じ方向を向いた。
戦争は終わった。
勝ったのだ。
舞台の上で、一人の兵士が拳を掲げた。
「王家万歳!」
それを合図に、役者たちが一斉に拳を掲げる。
「王家万歳!」
金管が鳴った。
その瞬間、一階席の男たちも立ち上がった。
誰かに促されたわけではない。
そういうものだった。
軍人が立つ。
貴族が立つ。
議員が続く。
「王家万歳!」
舞台から客席へ。
客席の前方から後方へと声が広がっていく。
二階のボックス席でも人々が立ち上がった。
婦人たちは扇を閉じ、男たちは胸へ手を当てる。
「王家万歳!」
楽団が最後の和音を叩きつけた。
拍手が起こった。
その中心に立つ王女の頭上には、まだ花冠はなかった。
そうして物語は始まった。