第22章 幕開け
現れたのは、宮殿だった。
「花冠がない!」
舞台の中央で、式典官が叫んだ。
「いえ、ございます」
「では、なぜここにない!」
「こちらへ運ぶよう申しつけました」
「誰に」
「侍従長に」
「侍従長は?」
「席次表を作り直しております」
「なぜだ!」
「公爵閣下が、侯爵閣下より後ろでは戦勝祝賀に出席できないと」
「戦場では前に出なかったくせにか」
客席から、最初の笑いが漏れた。
「公爵はどこだ」
「勲章を替えております」
今度は、はっきりと笑いが起こった。
「どの勲章だ」
「今回の戦争のものを」
「それをつけてくればいいだろう!」
「どれを一番上につけるかで揉めておりまして」
一階席のどこかで、誰かが小さく咳払いをした。
その近くに、実際に胸いっぱいの勲章をつけた男が座っていたからだった。
舞台の騒ぎは続いた。
誰をどこへ座らせる。
誰が王の隣を歩く。
誰が最初に祝辞を述べる。
誰の名前を新聞へ載せる。
戦勝祝賀を目前に控え、宮廷中がひっくり返っている。
やがて、舞台の奥から声がした。
「殿下がお見えです」
人々が一斉に姿勢を正す。
光が差した舞台の奥から、美しい王女が現れた。
客席の空気がわずかに変わる。
祝賀のための衣装をまとい、これから国の勝利を象徴する花冠を受け取る王女。
先ほどまで右往左往していた貴族たちが、途端に恭しく頭を下げる。
王女はそれを見回した。
「……花冠は?」
一瞬の沈黙。
式典官が目を逸らす。
客席がまた笑った。
王女も微笑んだ。
それは困ったような、諦めたような微笑みだった。