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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第22章 幕開け


幕が上がってしばらくすると、ニナはイルミのことを忘れていた。

光の中に浮かぶ宮殿。

色鮮やかな衣装をまとった人々が行き交い、その足元を音楽が流れていく。
歌声が重なり、遠ざかる。

今度は別の場所から聞こえてくる。
そのたびに景色まで変わって見えた。
いつの間にか膝の上で組んだ手は解けていた。

やがて、一人の少女が光の中から舞台へ現れた。
その瞬間、劇場の空気が変わった気がした。

ニナは目を離せなかった。
綺麗な人だった。
白い肌も、長いブロンドの髪も、光を受ける淡い色の衣装も。


少女がゆっくりと顔を上げた。
オーケストラの音が細くなる。
そして、歌がその上を通った。
凛とした声が、広い劇場をまっすぐに渡っていった。 

ニナは息をするのを忘れた。
綺麗だった。
音楽も。

舞台も。
そこで生きている人たちも。

何がこんなに胸をいっぱいにしているのか分からなかった。
物語なのかもしれない。

歌なのかもしれない。

あの少女なのかもしれない。

お芝居を見にきたはずだった。

なのに、どうしてこんなに本当のように見えるのだろう。

誰かを愛することも。

誰かを待つことも。

傷つくことも。

作り物であるはずの舞台の人間たちは、真っ直ぐに歌う。

愛したら愛しい。

悲しかったら悲しい。

会いたければ会いたいと。


同じ言葉を、何度も。
旋律を変えて。

声を重ねて。

ときには、劇場中を震わせるほどの大きな声で。
そんなことを現実で口にしたら、きっと呆れられる。
もう分かったと笑われるかもしれない。
けれど、ここでは誰も止めなかった。

愛だけではない。
嫉妬も、怒りも、欲も、見栄も。

人には見せたくないような愚かさまで、隠すどころか舞台の真ん中へ引きずり出してしまう。
それなのに、不思議なくらい綺麗だった。

(綺麗……)

涙は出なかった。
胸の中に何かがいっぱいに詰まって、それ以上入る場所がなくなってしまったようだった。

こんなものが、この世にあるんだ。
ニナはただ、ただ舞台を見つめていた。

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