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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第22章 幕開け


開演を告げる鐘が鳴った。
ざわめいていた客席がゆっくりと静まっていく。


王侯貴族、各国の使節、楽壇の関係者。
そして、噂を聞きつけた民衆までもが席を埋め尽くしたオペラ座には、張り詰めた期待が満ちていた。


その一角、ボックス席にゾルディック家の姿があった。
キキョウが手元のオペラグラスを上げる。

「まあ……」

映ったのは舞台ではない。
燕尾服に身を包み、指揮台へ向かう長男の姿。

「仕立ては悪くありませんわね」

満足そうに小さく頷く。

「もう少し胸元に装飾があっても華やかでしたけれど……」

そんなことを呟きながらも、その視線は嬉しそうだった。

隣ではシルバが腕を組み、ただ黙って舞台を見つめている。

キルアは退屈そうな顔をして椅子へ深く腰掛けていた。

ニナは会場全体を見回していた。

照明。
赤い緞帳。
幾重にも並ぶ桟敷席。
見渡す限りの観客。

(こんなに……)

これほど多くの人がイルミの音楽を待っている。
自然と胸元で両手を握り締めた。




やがて劇場の灯りがゆっくり落ちて、客席は闇に包まれる。

イルミが静かに指揮棒を上げた。
それが振り下ろされる。

――張り詰めた静寂を裂くように、金管が鳴る。
続いて弦が走り出す。
やがて音は幾重にも重なり、一つの巨大なうねりとなって劇場を満たしていく。

その時だった。
退屈そうに座っていたキルアの瞳が、すっと変わる。

「……」

膝の上に置いていた右手の指先が動いた。
旋律をなぞるように。まるで鍵盤を弾いているかのように。
本人も気づかないまま、身体が音楽を追い始めていた。

シルバは、その様子を横目で一度だけ見る。
そして再び舞台へ視線を戻した。

キキョウのオペラグラスを握る手に力が入る。
舞台中央で堂々と指揮を執るイルミ。
あの幼かった長男が、いま、この王立劇場の中心にいる


「……っ」

込み上げるものを必死に押し殺す。
今にも立ち上がって叫びたいくらいだった。

「イルミ! 私の息子ですわ!」

そう誇らしく宣言したい衝動を、唇を噛み締めて飲み込む。
その華奢な肩は小刻みに震えていた。
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