第21章 最後の小節
しょげているウイングを、イルミがちらりと見る。
本番前日だというのに、室内履き。
シャツの裾も片方だけズボンからはみ出している。それから、ズシにすっと視線を戻す。
「ズシなら大丈夫だよ。師匠を見習えば?」
「押忍! 自分、できる限りのことはやります!」
「子どもは観客にウケるし」
「え?」
ズシが固まった。
「ゾ、ゾルディック先生……そっちっすか」
「ほら。もう一回やるよ」
指揮棒が上がる。
ズシは慌てて構え直した。
「押忍!」
――ドン。
「ジャスト。もう少し溜めて」
「押忍……!」
――ドン。
「そう。それ」
「……できました?」
「できてるよ」
「押忍!」
目を輝かせてマレットを握るズシの横で、イルミはまだ何かを教えている。
その様子を、舞台の上に残された歌手や楽団員たちは、しばらく呆然と眺めていた。
「……負けてられないな」
やがて将校役の男が、新しい旋律を小さく口ずさみ始めた。
その向こうではヴァイオリン奏者たちが譜面を覗き込み、合唱団もそれぞれの位置へ戻っていく。
止まっていた舞台が、また動き始めた。