第21章 最後の小節
「代役は?」
「探してはいます。ただ、今から明日の最終稽古に入って、本番までに仕上げられる者となると……」
「いないんだ」
「ええ」
イルミは視線を落とした。
「じゃあ、二幕の合唱は全部ボツってこと?」
写譜師はイルミから視線を外さないまま言った。
「それは、あなた次第です」
「……」
「今のままでは、できません」
二幕。
もっとも重要な合唱だった。
若い近衛将校の独唱から始まり、兵士たちがそれに応える。
そこへ侍女、市民の声が重なり、最後に王女が加わって、すべての声がひとつになる。
主役テノールを起点に組み上げた構成だった。
ここを失えば、一曲なくなるだけではない。
王女が花冠を戴く第三幕へ向けて積み上げてきたものが、ひとつ抜け落ちる。
「……」
「明日の朝、また伺います」
写譜師は一礼し、去っていった。