第21章 最後の小節
送り主は、ゾルディック家だった。
箱には一通の手紙が添えられていた。
イルミは封を切る。
見覚えのある筆跡だった。
――初演、おめでとうございます。
そこまで読んで、イルミの手が止まった。
「誰から?」
横から覗き込もうとする。エレオノーラから、イルミは手紙を少し遠ざけた。
「母さん」
「お母様?」
なぜかエレオノーラの目が輝いた。
イルミは続きを読む。
――あなたが王都でどのような格好をしているのか、母は心配でなりません。まさか普段着のまま、王族の御前で指揮をするつもりではありませんね。
イルミは黙った。
「何て?」
「……別に」
――あなたは王宮の客人であり、作曲家であり、ゾルディック家の長男です。舞台に立つ以上、外見も責任のうちです。せっかくなら、それに相応しい格好をなさい。
イルミは手紙を畳んだ。
「……」
イルミはそのまま箱を閉じようとする。
「お召しにならないの?」
「面倒」
「先生。お召しください」
衣装係が、閉じかけた箱を押さえた。
「今着てるのでいいけど」
「駄目です」
留め金が外された。
蓋を開けると、最初に見えたのは白い布だった。その下から、深い黒が現れる。
衣装係が上着を両手で持ち上げた。
「まあ……」
エレオノーラが小さく声を漏らした。
舞台衣装のような派手さはなかった。
けれど、生地そのものが違う。
光を受けると、深い黒の奥にごく薄い織り柄が浮かぶ。襟と袖口には細い銀糸。その中に、ゾルディック家の紋章が控えめに織り込まれていた。
白いシャツ。
濃紺の腰衣。
黒いズボン。
革靴。
手袋。
必要なものが、一式揃っている。
さらに小箱まである。
「これも?」
エレオノーラが開けた。
中には銀の留め具が収められていた。
小さな石がひとつだけ埋め込まれている。
「綺麗」
衣装係も覗き込む。
「さあ、お召し替えを」