第21章 最後の小節
第三幕の衣装だった。
淡い紫色のドレスには細かな刺繍が施され、胸元から裾へ向かって、光を受けるたびに模様が浮かび上がる。
王女がひとりで恋を歌う場面。
華やかな宮廷の衣装とは違い、装飾は抑えられていた。
エレオノーラは鏡の前でゆっくりと一周した。
「どうかしら?」
衣装係ではなく、イルミを見る。
イルミは少し離れたところから彼女を眺めていた。
顎に指を添え、しばらく黙っている。
「歩いて」
「感想を聞いているのですけれど」
「歩かないと分からない」
エレオノーラは口を尖らせたが、言われたとおり歩いた。
三歩歩くと、裾が遅れてついてくる。
四歩目で向きを変える。
「そこ」
イルミが人差し指を立てて言った。
「何?」
「裾が長い」
「……それだけ?」
「昨日、引っかかってたから」
衣装係が慌てて裾を確認した。
「ほんの少し上げましょう。――これなら舞台でも問題ありません」
ほかの衣装も、次々と仕上がっていった。
王の重い上着。
肩から垂れる布。
腰に佩く剣。
侍女たちのドレス。
兵士たちの軍服。
合唱の衣装まで揃うと、昨日まで見慣れていた歌手たちが別人のように見えた。
ただ歌っていた人間たちが、王になり、侍女になり、兵士になった。
そのときだった。
扉の向こうが騒がしくなった。
「失礼します」
男が二人、大きな箱を抱えて入ってきた。
衣装部屋に置かれているどの箱よりも大きい。
黒い木箱だった。
金具までついている。
「どなたの衣装です?」
衣装係が尋ねる。
男は札を確認した。
「ええと、イルミ=ゾルディック様へ」
イルミが顔を上げた。