第21章 最後の小節
その頃。
王立劇場では、最後の通し稽古が始まろうとしていた。
客席には誰もいない。
衣装をまとった歌手たちが舞台袖で出番を待っている。
天井近くでは照明の火が揺れていた。
舞台にはすでに王宮の大広間が組まれ、柱のあいだから青い幕が垂れていた。舞台袖には次の幕で使う森の書き割りが立てかけられ、その向こうを衣装係や大道具係が絶えず行き来している。
楽団員たちも、今日は稽古場ではなくオーケストラ・ピットに入っていた。
譜面台の位置を直す者。
椅子の高さを確かめる者。
楽器を鳴らして、劇場の響きを確かめる者。
もう誰も、ほとんど話さない。
譜面をめくる音。
弦を確かめる、ごく短い音。
咳払い。
それらが一つずつ消えていく。
イルミは指揮台に立った。
指揮棒を上げる。
劇場全体が、一瞬だけ静まり返る。
そして、ゲネラルプローベが始まった。
幕が進む。
音楽は止まることなく劇場を満たしていった。
イルミが指揮棒を振り、楽団は応えた。
歌手たちの声がその上を渡り、舞台の奥へ、誰もいない客席へと広がっていく。
最後の音が消えるまで、イルミは一度も指揮棒を置かなかった。
ゲネプロを終えても、衣装部屋だけは静かにならなかった。
「まだ足りません」
壁際には色とりどりの衣装が並び、長机の上には糸巻きや針、鋏が散らばっている。
第一幕の宮廷服。
第二幕の舞踏会。
第三幕の王女のドレス。
役者たちは一人ずつ呼ばれ、袖を通し、歩き、腕を上げ、また脱がされた。
舞台で美しく見えるだけでは足りない。
歌えなければならない。
歩けなければならない。
時間どおりに着替えられなければならない。
「もう少し、ここを」
衣装係がエレオノーラの腰に手を添えた。