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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第20章 王女のアリア


リハーサルが終わってから、イルミは誰とも目を合わせなかった。

「……少し、一人にして」

そう言い残してリハーサル室を出て、アパートへ戻ると、そのまま自室へ閉じこもってしまった。



夕食の時間になった。

「先生はどんなご様子?」

エレオノーラが尋ねると、給仕係が困ったように首を振った。

「お部屋へお持ちしましたが……食べない、と」

胸が締めつけられた。

(私のせいで……)

歌えなかった。
何度やっても、イルミの求める音には届かなかった。
とうとう、あんなふうに稽古を終わらせてしまった。


気づけば、エレオノーラはイルミの部屋へ続く廊下を歩いていた。
何度も通った廊下だった。
壁の燭台も、ところどころ黒ずんだ床板も、奥に並ぶ古い木の扉も、いつもと何も変わらない。
けれど今夜は、並んだ扉のどれもが、ただの古い木のように見えた。

イルミの部屋の前まで来る。

コンコン。

「……先生」

返事はない。

「エレオノーラです」

少しだけ間を置く。

「先生……少しだけ、お話しできますか」

やはり返事はなかった。

エレオノーラは俯いた。
今日はもうやめた方がいいのかもしれない。
諦めて戻ろうとした、その時だった。

カチャリ。

背後で扉が開く。
振り返ると、疲れ切った様子のイルミが立っていた。

「先生……」

いつもより心なしか目元が黒ずんでいる。
その肩越しに、部屋の中が見えた。
机いっぱいに散らばった楽譜。
開いたままのインク瓶。
床にまで落ちた、書き損じの紙。
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