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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第20章 王女のアリア



「終わり」

イルミは指揮棒を下ろした。


それでようやく、楽器を片付ける音がぽつぽつと始まった。
奏者たちは互いに顔を見合わせたが、誰も理由を聞こうとはしなかった。


音を外したヴァイオリン奏者は、青ざめた顔で楽譜を閉じた。

「……俺のせいかな」

隣の男に小声で呟く。

「知らない。とにかく明日までにさらっとけ」

「……うん」

もう一人が立ち上がる。

「まだ死にたくない。楽屋で練習するぞ」

三人は楽譜を抱え、足早に楽屋へ向かった。



エレオノーラは、譜面を抱えたまま舞台に立ち尽くしていた。

「先生……」

かすれた声が漏れる。
イルミが視線を上げる。

「私……何が間違っていたんでしょうか」

イルミはしばらく答えなかった。
それから、ゆっくり首を横に振った。

「……いや」

短く息を吐く。

「違った」

エレオノーラの瞳が揺れた。

イルミは、それ以上は言えなかった。


耳に、"別の声"が鳴っている。
そんなこと、誰にも言えるはずがなかった。



誰かが窓を開けた。
途端に、外の音が流れ込んできた。
馬車の車輪。

石畳を踏む蹄の音。

遠くの話し声。

生温い風が入り、譜面の端を持ち上げる。
部屋がようやく息をした。

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