第17章 探究者達
自分の筆跡ではない。
見慣れた、癖のある文字。
「勝手に触ってるし」
口ではそう言いながらも、指先はその書き込みをなぞっていた。
イルミはしばらくその音列を眺めた。
イルミには、五線譜の上を滑るように走る生き物が見えていた。
幾重にも絡み合った弦が互いを飲み込み、解き、また絡みつく。
龍だ!――雲海を裂きながら天へ昇る巨大な龍。
第二ヴァイオリンが尾を引き、ヴィオラが胴を支え、チェロが地を這うように唸る。その背を第一ヴァイオリンが駆け上がる。
「……ズルいな。反則だよね」
思わず漏れた。
同じ弦楽器なのに、それはもはや旋律ではない。
理論だけでは説明つかない。
理論と呼ぶのは違う
その生命感は龍そのものだった。
「……爺ちゃん」
窓の外では、ゼノを乗せた馬車が王都を離れ始めていた。
「イルミ様をお助けにならなくて宜しかったのですか」
向かいに座るゴトーが尋ねる。
ゼノは目を閉じたまま答えた。
「十分じゃろ」
「そうですか」
「甘やかし過ぎると碌なことにならん」
ゼノは目を閉じたまま、小さく口元だけを緩めた。