第17章 探究者達
王女は長い金髪を結い上げ、濃紺のロングスカートを纏っていた。淡いクリーム色のブラウスの袖は捲られ、袖口にはインクが付かないよう細いピンが留められている。窓から差し込む夏の日差しが白いうなじに静かに降り注いでいた。
今日も部屋には、途切れることなくペン先の音だけが響いている。
エレオノーラは書き終えるたびに束を揃えて脇へ置く。
一枚。また一枚。
提出用の一覧表に印を付けていく。
(あと……)
視線を総譜の山へ移すと机いっぱいに積まれていた紙束も、今では半分以下になっていた。
(残りは、おそらく数曲……)
もちろん部分的な改訂はあるだろう。
それでも、大きな山は越えている。
「失礼いたします」
写譜師が静かに一礼をし、部屋に入ってきた。
エレオノーラは顔を上げると、仕上がった清書を手に立ち上がった。
「こちらが本日の分になりますわ」
「ありがとうございます」
写譜師は譜面を確認しながらパラパラと捲っていく。
ふと、一枚でその手が止まる。
「殿下……」
「はい」
「恐れ入ります。こちらなのですが、第二クラリネットとヴィオラの音が重なっております。お手隙の際に先生にご確認いただけますでしょうか」
エレオノーラはイルミを見る。
机に向かったままペンは一度も止まらない。だが、写譜室には一刻も早く回さないと楽団員に譜面が行き渡らない。
イルミは写譜師とのやりとりを聞いていないのか顔を上げない。
「……」
エレオノーラはイルミの机の側に行く。
「先生……」
「……」
「先生」
「…ん」
「第二クラリネットとヴィオラの音が重なっているそうです」
イルミはようやく譜面へ手を伸ばし一目見る。
「ぶつかってるね」
ペンがさらりと走った。
「ありがとうございます」
エレオノーラは写譜師へ向き直る。
「修正いたしました」
「恐れ入ります」
写譜師は再び譜面をめくる。
「もう一点ございます」
「はい」
エレオノーラが譜面を覗き込むと写譜師は続けた。
「この部分……ナチュラルが入らない場合、和音がかなり濁るかと存じます」
「……」
「先生のご意図であれば、そのまま清書いたしますが……一度ご確認いただけますでしょうか」