第17章 探究者達
そう言い残し、今度こそ部屋を出ていことする。
ゴトーも立ち上がり一礼して後に続こうとした、その時――。
「失礼致します」
執事がようやくお茶を持ってきた。
ゼノとゴトーを順番に見て、執事はゴトーに確認するように聞いた。
「お帰りでございますか、ゼノ様?」
イルミは咄嗟に立ち上がる。
「おい、ゴトー」
イルミはドアに向こうとするゴトーの襟を掴んで強引に引き戻した。
「おわっ……!」
ゴトーは勢い余ってソファへ尻餅をつく。
「茶くらい飲んでけよ」
「……イルミ様……まだ帰るとは申し上げておりません」
「爺ちゃんも! この茶葉グランツェの特産品でパドキアでは手に入らないし」
イルミはゼノの肩に両手を置いた。
ゼノはイルミに促されるままソファーへと腰を下ろす。
「せっかくじゃ。頂くとするか」
「それでは、私も失礼して頂きます」
イルミはゼノとゴトーの二人と向き合うように腰を下ろした。
「爺ちゃん! 今回は本当にヤバいんだよ。大作で曲数も多い上に納期が短すぎる。その上、楽団員がポンコツ――いや、色々戦争絡みの事情があるみたいで……」
ゼノは黙って孫を見つめた。
少し前までのイルミなら、他人の事情など一顧だにしなかった。
いつの間にか、他人の背負うものまで見ようとしているとは――少し、大人になったか。
「写譜師はミスはない。だけど責任範囲の線引きは絶対で、一切揺るがない。そこの信念だけは妙に強くて、……敵わない」
ゼノは相槌も打たず、お茶を一口啜った。
「イルミ様。そろそろリハーサルのお時間になります」
銀の盆を脇に抱えて立つ執事から声が掛かる。
「あー。はいはい」
「イルミ様」
ゴトーがスッと立ち上がった。
「お櫛を失礼いたします」
ゴトーはイルミの後ろに回ると懐から取り出した櫛でイルミの髪を梳かしてゆく。最後に襟元を整えてから、イルミを鏡の前に誘導した。
「お綺麗でございます」
「……うん」
「行ってらっしゃいませ」
「行ってくる」
すぐに歩き出し、後ろ向きでヒラリと手を振る。
先ほどまで祖父に甘えていた人物とは思えない足取りで、イルミはリハーサルへと向かった。