第17章 探究者達
「……?!」
イルミはおもむろに立ち上がりエレオノーラの作業するテーブルへとやってきて、そしてエレオノーラの手元にある総譜へ視線を落とした。
「ここ」
小節の頭を軽く指先で叩く。
「この旋律、歌手ならどこで息を吸いたくなる?」
エレオノーラは譜面を見る。
「えっと……この四小節の終わりでしょうか」
イルミは首を振る。
「遅い」
そう言って二拍目を指した。
「ここでもう息が欲しくなる」
「え……でも、まだフレーズが……」
「譜面を目で読むからそうなる」
イルミは静かに言う。
「歌って」
「……え?」
「頭の中でいい」
エレオノーラは恐る恐る旋律を思い浮かべる。
「あ……」
二拍目まで歌った瞬間、自然と胸が息を求めた。
ならばそこで一度スラーが切れて、スラーの切れ目にスタッカート、その次からまたスラーが繋がる……!
エレオノーラの脳裏にないはずの符号が浮かんで見えた。
「感じた?」
「はい……」
「それが呼吸。作曲家は必ず息が吸えるように書いてる」
イルミは別のページをめくる。
「ここは逆」
今度は長い音符が並ぶ。
「息は続く。でも重心が前にある」
「重心……」
「どの音へ向かって進んでるか」
イルミはペン先で和音の頂点を軽く示した。
「ここへ向かって全部引っ張られてる」
エレオノーラはもう一度旋律を追う。
さっきまで一つ一つ孤立して見えていた音符が不思議と一本の線になって流れ始めた。