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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第17章 探究者達



「何」

少し間を置いて、ようやく短い返事が返ってきた。

エレオノーラは少しだけホッとしたように口を開く。

「……明日のリハーサル、なんだか緊張します」

イルミのペンは止まらない。

「……何が?」

「初めて先生の曲を歌うから……ちゃんと歌えるかなって」

数秒の沈黙の後、淡々とした声が返る。

「譜面通りに歌うだけでしょ」

あまりにも当たり前のように返され、エレオノーラは少しだけ眉を下げる。

「そうですけど……」

「自信あるのかと思ってた」

その何気ない一言が胸に刺さった。

ペンを握る指に力が入りインクが紙へ滲んだ。

「そんな簡単に仰らないで」

思わず漏れた言葉にもイルミは何も答えない。

エレオノーラの言葉は止まらなかった。

「……怖いんです」

俯いたまま小さく零す。

「ちゃんと歌えなかったらどうしようって」

イルミはやはり返事をしなかった。
机に向かったまま、ペンが一定の速度で五線譜を走る。
紙を擦る音だけが静かな部屋に響いていた。

エレオノーラは俯いたまま唇を噛む。
言わなければよかっただろうか。弱音など吐くべきではなかったのだろうか。そう思い始めた、その時だった。


「じゃあ、舞台から降りろ」

淡々とした感情のない声だった。

その一言はエレオノーラの胸に鋭く突き刺さる。

「…え」

エレオノーラは思わず顔を上げた。

「怖いなら代役を立てる。それだけだ」

黒い瞳は譜面から離れない。

「臆病者に舞台に立つ資格はない」

エレオノーラは思わず椅子から立ち上がった

「……そんな言い方」

声が震えていた。

「お父様みたいなこと、言わないでください」

カリ、と紙を擦る音が止む。

部屋から音が消えた。
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