第16章 喧騒の交差点
舞台袖が騒がしくなった。
今日は前半がオーケストラのみの練習、後半は合唱と歌手を加えた合同リハーサルの予定だった。
扉が開き、次々と舞台俳優達が入室してくる。
ソプラノ。
テノール。
バリトン。
本番のような華やかな衣装ではない。
それでも、ほぼ黒ずくめの楽団員達とは明らかに空気が違い、人前へ立つことに慣れた者特有の存在感があった。
彼らが部屋へ入るだけで、どこか空気が華やぐ。
――いよいよ歌合わせだ
誰もがそう思った、その矢先だった。
扉が開く。
部屋の空気が変わった。
「エレオノーラ殿下」
誰かが呟き、自然と視線が集まる。
淡い檸檬色のドレスの上から白ショールを羽織っている。本番衣装ほど豪奢ではないが、上質な生地は歩くたびに柔らかな光を返し、長い金髪をより鮮やかに引き立てていた。
背筋を伸ばした立ち姿には無駄がないく、真っ直ぐ前を見据える青い瞳には不思議と人を惹きつける力があった。
「殿下、最近ますますお綺麗になったよな」
「ああ、見惚れちゃう」
小声で交わされる囁きにも気に留めずエレオノーラは静かに歩みを進める。
彼女が通るだけで空気が整う。
楽団員達も思わず姿勢を正した。
エレオノーラの視線は自然と指揮台へ向いた。
指揮台の上では、天井からのライトに照らされた長身の影が見える。
エレオノーラは僅かに微笑んだ。
イルミはそこにいた。
相変わらずだった。
誰もが休憩しているというのに、一人だけ総譜を開いている。
きっと頭の中では、既に音楽が鳴っているのだろう。
(私が入室したことに、気付いていないはずはないのに……)
そんな少し拗ねたような気持ちを抱きながら、エレオノーラは彼の方へ歩み寄った。