第16章 喧騒の交差点
ふと別の奏者が思い出したように口を開く。
「そういえば最近、支給される飯うまくなった気がしないか?」
「ああ」
「肉増えたよな」
「パンも前より柔らかい」
「戦争終わって復興してきたからじゃないのか?」
「いや、噂だと先生が交渉したとか」
一瞬静まり返る。
「なんでだよ」
「有り得ねぇ」
「どんな交渉だよ」
ドッと笑い声が広がった。
休憩に入った楽団員達の話し声が、指揮台の譜面を見るイルミの背後で交わされる。
本来なら気に留める必要のない雑音だった。だが、イルミの耳は勝手に音を拾う。
誰がどこで話しているのか。
誰が笑ったのか。
誰が椅子を引いたのか。
意識を向けなくても判別できた。
『ウイング先生は相変わらずだな』
『音楽院の?』
『ああ。当時と全く変わってない』
その言葉に、イルミの指が一瞬だけ止まる。総譜へ視線を落としたまま思う。
(あの教師の教え子か)
続く会話も自然と耳へ入ってきた。
音楽院時代。特待生。オペラへの憧れ。そして、戦争の影響。
(あいつのせいでここは甘い演奏家ばかり増えたのか)
そんなことを一瞬考え、イルミは再び譜面へ意識を戻した。