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【H×H イルミ】黒と白のアリア

第16章 喧騒の交差点


指揮棒が止まり、音楽が途切れる。

張り詰めていた空気が緩み、隠しきれなくなった疲労が一斉に滲み出した。

小さく息を吐く音。
譜面をめくる音。
椅子の軋む音。

誰も言葉は発しない。それでも部屋のあちこちから疲労だけが聞こえてくるようだった。

今日だけで何度目の中断か、もう誰も数えていない。


そんな中、総譜を見つめていた黒い瞳が鋭く動いた。

「第二ヴァイオリン。七十八小節目」

名指しされた奏者が肩を落とし、大きくため息を吐く。

「また……俺っスか」

「またオマエだ」

淡々と返され、男は思わず舌打ちした。

「そこが揃わない限り進まない」

反論する気力も残っていない。
男は譜面を閉じかけた手を止め、渋々視線を楽譜へ戻した。


その時だった。

ドォン――。

背後から重い音が響いた。

団員達が一斉に振り返る。

そこにはティンパニの前に立つウイングの姿があった。手にはマレットが握られている。

「おっと、失礼」

そう言いながら、本人はまるで悪びれた様子もない。

へらりと笑うその顔に、団員達の何人かが思わず吹き出した。

「皆さん、少し肩の力を抜きましょう!」

ウイングは明るく声を張る。

「このままだと開幕前に全員倒れてしまいますから」

その言葉にあちこちから小さな笑い声が漏れ、張り詰めていた空気がほんの僅かに緩む。


イルミだけは表情を変えなかった。
懐中時計を取り出し、無言で時刻を確認する。

「十分後。七十五小節から」

その言葉に楽団員達が一斉に息を吐いた。
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