第15章 五線譜の牢獄
「それから……このスラーですが、二小節目まででしょうか。それとも三小節目まで跨いでおりますか」
イルミは譜面を覗き込んだ。
「…………三小節目の一拍目まで」
「なるほど。やはりそうでしたか」
写譜師は納得したように小さく頷く。
「前からの流れを受けているわけですね」
「どう見てもそうでしょ」
「念のための確認になります。万が一間違えてしまうといけませんので」
「他は?」
「確認事項は以上です」
写譜師は丁寧に譜面を抱え直した。
「それでは失礼致します」
扉が閉まり、写譜師の足音が遠ざかっていく。
部屋に一人になったイルミは、机の前に座ったものの、しばしの間、どこと無く窓枠の中の空を眺めた。
そして黒い目を何回か瞬くと、ようやく白紙の五線譜を引き寄せる。
「えっと、……なんだっけか。ああそうだ、第二幕か」
写譜師はとりあえず真面目な男のようだ。
それなのに、妙に印象に残った。
後々面倒になりそうな、どこか厄介な放っておけない予感だった。
イルミは机の上の五線譜へ視線を戻す。
だが一度逸れた意識は、なかなか譜面へ戻らなかった。