第15章 五線譜の牢獄
荷解きをして部屋を一通り整え終えると、執事は与えられたアパートの別室へと移っていった。
湯が冷めないうちに、イルミは入浴を済ませる。
馬車旅の埃を久々にさっぱりと洗い流したイルミは白いシャツへ袖を通した。
湯上がりの湿気に僅かに糊の匂いが混じるシャツの、皺一つない襟元を指先で軽く整える。
部屋は静まり返っていた。
馬車の揺れも車輪の軋む音も此処には無い。窓の外からにわかに街の喧騒が聞こえるだけだ。
コトリ、と扉が鳴った。
音のした方へ向かうと、扉の投函口に封筒が差し込まれていた。
イルミはそれを引き抜き、部屋に戻りながら裏返して見れば差出人はゾルディックだった。
到着を見計らったように届いた封筒をデスクに放る。どうせ、読まなくても内容はわかっていた。
濡れた髪へタオルを被せて、水気を吸わせてるため指先で軽く押さえていたその時だった。
コンコン。
今度ははっきりと扉を叩く音がした。
イルミが扉を開けると、書類を脇に抱えて男が立っていた。
「王宮歌劇場写譜室の者です。私、今回担当させていただく写譜師です」
「どうも」
イルミは髪がまだ湿ったままの頭を僅かに下げる。
「先般は第一幕分の楽譜をご送付いただきありがとうございました。本日は今後の進行について何点かご相談に参りました」
どうやら、手紙で数回やり取りをした写譜師らしい。イルミは身体を脇へ退けた。
「どうぞ」
「失礼致します」