第15章 五線譜の牢獄
「イルミ様」
声を掛けられる。
「……ん」
低く掠れた声が漏れた。
「王都に到着いたしました」
止まった馬車の中で数秒ぼんやりと黒い天井を見上げる。それから頭に被っていたジャケットを掴んで取り払う。
黒髪が数本、目に掛かる。
馬車を降りると雨はいつの間にか弱まっていた。
首筋へ手を当てゆっくりと左右へ捻ると、小さく骨が鳴った。
長旅で固まった筋肉があちこち軋む。
イルミは軽く肩を回してそのままジャケットを羽織った。
「王宮が用意したアパートはこの辺りのはずです」
執事が一礼して離れていく。
雨に濡れた石畳の向こうの広場で軍楽隊が演奏する音が聞こえた。
王都グラーデンは戦勝国の首都らしく、どこか昂揚した空気が街全体を包んでいる。
通りには露店が並び、広場では子供達が走り回っている。
王宮へ続く大通りには色鮮やかに国旗が旗めいている。
戦争の爪痕はまだ残っていたが、それでも街は前に訪れた時より確実に活気を取り戻していた。
勝った国は強いな、とイルミは思う。
戦争などには興味がないが、金は幾らあってもあり過ぎて困るということはない。
この街がその証拠だった。
軍楽隊の演奏に、僅かな濁りが混じる。
トランペットが一音外した。
イルミは思わず眉を寄せる。
やがて執事が戻ってきた。
「こちらがお部屋の鍵になります」
差し出された鍵を受け取り、イルミは歩き出した。