第14章 災厄の到来
二人は港を見下ろせる高台の木製遊歩道へ出た。
足元の板が風に軋む。
視界の先では無数の帆柱が並んでいた。
海は夕陽を受けて銀色に輝いている。
空の色が橙から紫に染まっていく。
不思議と沈黙が気にならなかった。
「ライネル様」
「ん?」
「どうしてそんなに色々な場所へ行こうと思ったんですか?」
ライネルは少し考えている。
「最初は仕事だな」
低い声が風に溶ける。
「でも、気づいたら次の港が気になっていた」
「そうなんですね」
ライネルは海を見たまま笑う。
「知らない場所には、知らない人間がいる」
「はい」
「知らない食べ物もあるし」
ニナは笑った。
「それは確かに気になります」
「だろう?」
ライネルも笑う。
その笑顔は、ただ世界を楽しんでいる顔だった。
夕暮れの海は静かだ。
「寒いか?」
ライネルの声が降ってくる。
ニナは首を横に振った。
「平気です」
そう返しながらも、海風は夏なのに
思ったより冷たい。
ライネルは何も言わず、ただ隣に立ったまま海を見ている。
ニナは二人の間をすり抜ける風を塞ぐように、ほんの少しだけライネルとの距離を縮める。
「風除けくらいにはなる」
ライネルは外套を広げた。
「ありがとうございます」
ニナはその大きな外套に包まれるように身を寄せていた。
遠くでは船の鐘が鳴っている。
ライネルは静かに水平線を見つめたまま言った。
「こういう時間は嫌いじゃない」
「私もです」
風が吹いて、ニナの髪が揺れた。ライネルの大きな手が、自然にその髪を耳へ掛ける。
ニナは一瞬だけ目を瞬いたが、もう以前ほど緊張はしなかった。
ライネルの視線がふと柔らかくなる。
「今日は来てくれてありがとう」
ニナは戸惑う。
礼を言われるようなことをした覚えはない。
「私は何も……」
「そんなことはない」
ライネルは静かに言った。
「楽しかったよ」
その言葉に胸の奥がほんのりと温かくなる。
同じ景色を見て、楽しかったと言われる。そのことが嬉しかった。