第14章 災厄の到来
ニナはライネルの隣で果実を頬張りながら市場を歩き続けた。
塩漬けの魚。
香辛料の袋。
干した果物。
色鮮やかな織物。
目に入るもの全てが新鮮だった。
「世界って広いんですね」
気づけば言葉が零れていた。
ライネルは海の向こうを思い出すように少しだけ遠くを見る。
「広いよ」
静かな声だった。
「私も最初は驚いた」
「ライネル様もですか?」
「ああ」
彼は笑う。
「子供の頃は、この国が世界のほとんどだと思っていた」
港へ吹き込む風が二人の間を通り過ぎた。
「でも海へ出ると、自分が知らないものばかりだった」
海の向こうを見つめるライネルの青い目がまるで少年のように輝いた。
「だから面白い」
ニナはもう一度海を見た。
水平線の向こうは見えないけれど確かに続いている。
その先に知らない街があり、
知らない人がいて、
知らない暮らしがある。
少し胸が高鳴った。
それは憧れともどこか違っていて、ただ、世界は思っていたより広かったことが嬉しかった。
隣でライネルが穏やかに笑っている。
その笑顔を見ていると、不思議と肩の力が抜けていく。
港の見学を終える頃には、太陽は西へ傾き始めていた。
海風は昼より少し冷たくなり、船の帆が風を受けてゆっくり揺れている。
「疲れてない?」
ライネルが歩幅を緩める。
「大丈夫です」
ニナは首を振った。
むしろ胸の中は不思議なくらい軽い。
「今日は楽しかった?」
「はい」
自然と言葉が出る。
「本当に港には、世界には色んなものがあるんですね」
ライネルは少しだけ笑った。
「まだほんの一部だよ」