第14章 災厄の到来
ニナはその横顔を見上げた。
ライネルは屋敷で会った貴族達とは少し違っていた。
誰かに傅かれている訳ではない。
威張っている訳でもない。
けれど皆が自然に声を掛ける。
そしてライネルもまた、当たり前のように応じる。
――この人は、この土地を……
港の匂いも。
働く人達も。
ここで暮らす人間の生活も。
ただ所有しているのではなく、背負っているのだ。
領主としてのライネルをニナは初めて目の当たりにした。
「どうかした?」
ライネルが視線を向けニナは慌てて首を振った。
「いえ」
けれどニナは思っていた。
ライネル=ヴェルハイトは、自分が思っていた以上に大きなものを抱えて生きているのかもしれない。
ふと甘い香りが風に乗って流れてくる。
ニナは自然とそちらへ顔を向けた。
露店には見慣れない赤い果実が山のように積まれている。
「これは?」
「南の島から来た果物だ」
ライネルは一つ手に取った。
「甘くて日持ちする」
「日持ちするんですか?」
ニナの目が僅かに輝く。
「どのくらいです?」
「上手く保管すればひと月ほどかな」
「ひと月も!」
感心したように果物を見つめる姿に、ライネルは目を細めた。
「まずそこなんだな」
「え?」
「普通は味を知りたがる」
ニナは少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「つい……気になってしまって」
「どう使うか?」
「はい」
ライネルは思わず肩を揺らし、笑った。
「本当に料理が好きなんだな」
「そうですね」
ニナは斜め上を見上げるように考える。
「見たことのない食べ物を見ると、どうやって使うんだろうって。想像するのは楽しいです!」
「そうか」
ライネルは頷いた。
「船乗りにもそういう人間がいるよ。港へ着くたび市場へ飛び出していく」
「食べるためにでしょうか?」
「それもある。でも知らない土地を知るには、その土地の食事が一番早いらしい」
ニナは少し考える。
確かにそうかもしれない。
パンでも肉でも、セルディア家とゾルディック家の間でも大分違っていた。
食事だけでも暮らし方まで見えてくるような気がした。
「ほら」
ライネルは赤い果実をニナに渡す。
「甘くて美味しいよ」