第14章 災厄の到来
顔合わせから1ヶ月が経った頃。
ニナはライネルに誘われ港町を訪れていた。
ライネルと並んで歩くニナの頬を潮風が撫でていく。
石畳の道の向こうが賑わっている。
視線を向けると、何本もの帆柱が並んでおり、そこら中を荷役人達の掛け声が絶え間なく響いていた。
大きな木箱を担ぐ男達。
異国の言葉を交わす船員。
見たこともない色の布や果物。
屋敷の庭とも、宮廷の中庭とも違う。
人が働き、物が運ばれ、世界が流れている場所だった。
ニナは思わず足を止めた。
「すごい……」
その呟きに、隣を歩くライネルがふっと笑う。
「港は初めて?」
「はい」
ニナは素直に頷いた。
「こんなに人がいるなんて思いませんでした」
「今日はまだ静かな方だよ」
ライネルは海を見遣る。
「船が何隻も同時に入る日は、足の踏み場もなくなる」
「ライネル様!」
後方から声が飛ぶ。
振り返ると、荷を積み終えたばかりらしい若い船員が帽子を取りながら駆け寄ってきた。
日に焼けた顔には人懐こい笑みが浮かんでいる。
「桟橋の補修の件、本当に助かりました!」
「ああ、冬の嵐で大分傷んでいたからな」
ライネルは自然に応じる。
「漁が始まる前に間に合って良かった」
「おかげで今年は荷の積み下ろしも楽になります」
船員はそう言ってぺこりと頭を下げると、仲間の元へ戻っていった。
ライネルは特に気にした様子もなく歩き出す。
だが、それだけでは終わらなかった。
少し進めば魚商人が声を掛け、また少し進めば倉庫番が会釈を送る。
ライネルはその度に足を止めた。
「倉庫の湿気はどうだ?」
「新しい換気口のおかげで随分良くなりました」
「そうか。良かった」
短いやり取りが幾度となく交わされる
どうやらライネルは相手の顔も名前も覚えているらしい。